喜久絵 - KIKUE -

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伝統とモダンが生む「一生の宝物」

人形づくりは
どう時代と向き合うのか

出雲の阿国による「かぶき踊り」が今日の歌舞伎へ。あるいは本来、宗教行事である「踊念仏」が夏の盆踊りとなり今に伝わるように。人々の生活に寄り添う文化や風習は、そうやって暮らしの中に生きづいてきました。雛祭り、雛人形もその一つ。古来、中国において川で身を清め、不浄を流す行事が日本へと伝わり、人の形をした紙を川に流す風習に変化。これが後に流し雛となり、江戸時代に入ると女の子の節句として雛人形を飾る習慣へと定着していきます。

環境に合わせ進化を遂げなければ種が存続できないように、文化、風習も時代と共に少しずつ変化をしていくのだとしたら、私たちが為すべきことはただ単に「伝統に固執する」だけではありません。都市型のライフスタイルが定着、和室、床の間のない家庭が増えていく中、雛人形飾る文化を守り、いかに次世代へと紡いでいくか。「誕生を祝い、健やかな成長を祈り、幸せな結婚を願う」。人形を飾るという行事の背景にある、崇高とも言える日本独自の文化を守るため、人形づくりはどう時代と向き合わねばならないのか。

東玉は常にそう自分自身に問いかけてきました。

ひな人形親王飾り

新しい世界観を持った雛人形を

2001年。私たちはそのひとつの答えとして、新しい雛人形シリーズ<喜久絵>を世に送り出しました。

シリーズを任せた喜久絵は1970年に東玉工房に入門。正確で丁寧な技術を持つ東玉工房を代表する人形作家です。2004年には高度な伝統的技術、技能を有する者だけに与えられる『節句人形工芸士』の認定を受けますが、羽子板、衣装着人形などと異なり、木目込人形でこの認定を受けている職人は彼女を含め全国でもごくわずかしかいません。くわえて彼女は、木目込人形だけではなく幅広い経験を持っていました。1970年の入門とともに風俗人形作家・戸塚玉芳に師事。80年代半ばには衣装着人形の藤比呂泰のもとで有職親王雛づくり、80年代後半からは鈴木賢一のもとで江戸木目込人形づくりに従事します。

「女性らしい感性と高い技術力によって、伝統の<賢一>とはまた違った雛人形の新しい世界観を生み出してくれると思った」新シリーズに彼女を抜擢。そこに込めた期待を、当時の東玉社長、現会長・戸塚隆はそんな風に振り返ります。

つくり手の“原点”
に立ち返って

一方で東玉が送り出す製品である以上、それはただ新しいだけでなく、確かな技に裏打ちされた品質、脈々と受け継がれてきた“人形づくりの誇り”ともいうべき精神が宿らねばなりません。彼女に期待された「雛人形に新しい世界観」とは「伝統と新しさ」という二律相反するものをいかに共存させるかという、非常に難しい命題でもありました。

会社からの期待を受けた彼女は、伝統の木目込人形に「いかにして現代的な要素を取り入れるか」について試行錯誤を繰り返します。工房の同僚の意見も聞き「鈴木賢一先生からも顔の角度など、さまざまなアドバイスをもらいました」と言います。そんな中、彼女が立ち返ったのは自身が人形づくりの道へと歩を進めた“原点”ともいうべき想いでした。
「飾って思わず笑みがこぼれるような、そんな可愛らしいお雛さまをつくりたい」

難しい命題を考えすぎることでより難しく複雑にするのではなく、むしろシンプルに雛祭りの主役である女の子の目線に立つ。「女の子が感じる可愛らしさを形にしよう」と考えたのです。

喜久絵

喜久絵

おひなさま

まず彼女が試みたのが『入れ目』の採用でした。一般的に木目込人形の多くは『描き目』といい、目を筆で描き入れる手法が採られています。『描き目』によって入れられた切れ長の目は、人形のお顔全体に品位を生み出します。しかし<喜久絵>では伝統的なふくよかなお顔にガラスの目を入れることで、瞳に輝きを与え、人形があたかも未来を夢見る子供たちの分身かのような、生き生きとした可愛らしい表情を生みだしたのです。もちろんその裏には彼女が持つベテランの技がありました。「可愛らしさを出しながらも、雛人形の品格を落とさない」。そんな絶妙のバランスを見つけるため、妥協を許さない試行錯誤がそこにはあったのです。

<喜久絵>シリーズが発表されると女の子はもちろん、特に若いお母様方から「可愛らしい」「子どもが喜ぶ」「飾りやすい」と高い支持を得ます。今では新作発表の展示会場などで「可愛らしいお顔を見ただけで、すぐに<喜久絵>だと分かる」と言われるほど、根強いファンを獲得しています。

夢色シリーズ 愛桃

夢色シリーズ 愛桃

今、そして
子どもの成長とともに

<喜久絵>が女性、特に若い層から多くの支持を獲得できた理由には、お顔だけでなく、衣装や調度品など作品全体の色使いもありました。作品を見ていただくと分かりますが、<喜久絵>では伝統的な作品ではあまり用いられない、淡いピンクなどパステル調の色が使われていたり、屏風にさりげなく入ったハート柄、重ねられた衣のグラデーションや差し色の使い方に現代ファッションの感覚を取り入れるなど、細部にわたって<喜久絵>ならではのモダンが散りばめられています。

「明るくしたいから、華やかにしたいからといって、ただ色使いを明るく派手にすることはありません。色合わせやバランスを考えて崩しすぎず、しかし全体ではどこか現代的な雰囲気がでるような構成を考えています」と彼女は言います。

くわえて彼女の作品作りは「おひなさまが飾られる場所。常に現代の生活空間を意識している」ことも大きな特徴です。<喜久絵>シリーズの人気のライン『桜華』には台座や屏風がそのまま収納箱となるものがありますが、これなどは使い手に対する彼女なりの細かな気配りを感じさせる部分でしょう。また『夢色』というシリーズには「パティシエ」「ピアニスト」といった女の子の夢を作品全体のモチーフにしたものもあり、「洋空間に映えるおひなさま」として人気を博しています。

「毎年『おひなさまを飾るのが楽しみでしょうがない』と思ってもらえるような作品を届けたいですね。今という時はもちろん、長い時間愛し続けてもらえる人形であることを常に意識しています」と言う彼女は雛人形づくりに込めた想いをこんな言葉で表現します。

「おひなさまは女の子の一生の宝物ですから」

喜久絵2

PROFILE

喜久絵
 

喜久絵

きくえ

昭和45年

東玉工房に入門し風俗人形作家の戸塚玉芳に師事する

昭和60年

工芸作家 鈴木賢一に師事。江戸木目込人形の製作に従事する

平成元年

雛人形師藤比呂泰のもと有職親王雛の製作を学ぶ

平成5年

東玉工房コーディネートアドバイザーに就任

平成12年

東玉工房女流作家として喜久絵シリーズを発表

平成16年

節句人形工芸士に認定される

平成23年

草木染衣裳を取り入れたシリーズを発表

平成28年

夢色シリーズ発表