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人形師に訊く~着付師・飯塚孝祥(いいづかこうしょう)さん~

この記事では、人形師の飯塚孝祥(いいづかこうしょう)さんの「人形作りにかける思い」を紹介しています。
飯塚さんはお雛様の衣装の「着せ付け」という工程の職人さんで「ひな人形・五月人形大ご奉仕会2020」でご用意するお人形の製作にも携わっていらっしゃいます。

生まれた時から人形を作っている環境で育ちました

着付師・飯塚孝祥(いいづかこうしょう)さん

人形製作に携わるようになったきっかけを教えてください。

きっかけというきっかけではありませんが、生まれた時から家が人形を作っており、子守歌代わりにトンカチをたたく音を聞いていました。そのため必然的に人形師になった感じです。
20歳を過ぎてから本格的に修行に出ましたので、人形製作に携わってそろそろ20年になります。

飯塚さんが師匠と呼べる職人さん、尊敬できる職人さんはいらっしゃいますか?

やはり、父親、そして祖父が作っていた雛人形にできるだけ近づきたいという気持ちで人形製作をしています。他に尊敬できる人としては、人形製作の世界に入った頃、初めに問屋さんへ修行に行ったのですが、その時の番頭さんから雛人形だけではなく人形屋としての1年の流れを教わりました。その方には尊敬と感謝があります。

雛人形の繊細さ、工程一つ一つに思いを込めて

着付師・飯塚孝祥(いいづかこうしょう)さん

どのくらいのパーツでお雛様とお内裏様の一対が完成するのでしょうか?またどのような製作工程がありますか?

実際に数えたことはありませんが、パーツで考えると手や足、重ねの袖の枚数、裏地なども含めますと100くらいではないでしょうか。

雛人形の製作方法として胴体部分に木胴(もくどう)や藁胴(わらどう)を使っている職人さんもいらっしゃいますが、私は木胴を使っていて、そこにはかまを履かせるところから始めます。なので工程として考えたら50工程に及ぶと思います。

父親から教わったことですが、工程一つ一つがとても大切なんです。というのが、一ついい加減にやってしまいますと次の仕事がいい加減になって、そこからどんどん崩れてきます。特に大切なのは、一番初めに袴を履かせた状態で衣紋(えもん)というのをつけるのですが、そこが曲がってしまうと全てのバランスがおかしくなるので、まずはそこですね。中でも最も気を付けているのは、最後の振付け(ふりつけ)という工程です。形が決まる部分ですね。振付けの段階では、雛人形は腕が真っすぐになっていまして、「前に倣え」のような形なんです。そこから人間で言うとひじの関節の部分を曲げる、それが振付けと呼ばれる一番重要な部分だと思います。というのも、これを失敗して戻そうとすると針金が折れてしまいますので、一発で決めなければならない工程です。

雛人形を製作する過程で、失敗してしまうことはありますか?

失敗というより、仕上がりの形に納得がいかないことはありますね。そのため、次に仕事するにあたり、いかに軌道修正をしていくかというのを常に考えながら人形製作をしています。

お雛様一つ一つに職人の真心が込められている

近年インターネットでお雛様が購入されることも増えていますが、作り手としてはどのように思われますか?

これだけインターネットショッピングが普及していますので、私も販売サイトをのぞくことがあります。
基本的には「どのような生地や素材を使って、こういうのがいくらで買えます」と、ほとんどがそういうお勧め内容だと思います。その中には、作った人がどのような気持ちで作ったかというのが一切出ていません。
これはインターネット販売に限ったことではなく小売店での販売でもそうですが「作った職人さんがどのような気持ちで作っているか」という言葉が紹介されていればお客さまの見る目も変わるのではないかなと思います。
インターネット販売、小売店販売いずれにおいても、お雛様は決して大量生産で作っているわけではなく一つ一つ職人さんが本当に真心を込めて作っているのは間違いないと思いますので、そのような気持ちが紹介されていれば面白いと思います。

お雛様に触れることで、記憶に残してもらいたい

着付師・飯塚孝祥(いいづかこうしょう)さん

今後「このような雛人形を作っていきたい」という思いや、買われる方へのメッセージがありましたらお聞かせください。

私の作るお雛様は、お雛様をいかに豪華に、ボリュームがあるように見せられるかにこだわっています。他の職人さんが作ったお人形が貧弱というわけではないですが、たくさんの雛人形をずらっと並べた時に一目で気に入ってもらえるような見た目の豪華さにこだわって作っています。

よくお客さまから聞かれるのが「雛人形は触っていいのですか?」ということです。お母さんがお子さんに「お雛様には絶対に触っちゃダメ」とおっしゃったりすると思いますが、実は全然そんなことはなくて、雛人形の顔さえ気を付けていただければ、むしろいっぱい色んな部分を触っていただきたいです。そうやって触っていく中で記憶に残っていくと思うんですね。実際に手に触れてもらった方が、私も作った者としてうれしく思います。大切に飾るのではなく、お嬢さまに、手に取って眺めてもらった方がいいのではないでしょうか。

また「近年は飾るスペースがないので小さいの小さいの」と言われてしまいますが、基本を踏まえつつある程度のサイズがないと、感動が小さくなってしまうと思います。今後も「わぁ豪華だ」と感じていただける雛人形を作り続けていきたいですね。それがたとえ小さくなっても、小さいながらもどれだけ豪華さを演出できるかを考えて作っていきたいと思っています。